イギリス スカイ島 3

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朝食の席で私に話しかけてきた人は、老人施設か何かで一緒に暮らす仲間同士、60代後半から70代くらいの女性四人で、バンでイギリス国内を旅していた。

旅費を安くあげるのに交代で、二人がホテルに泊まり、残る二人は車に泊まりながら、旅を続けていた。日曜には、行った先々の教会で礼拝に参加しているようだった。

 

前日は晴天で、彼女達は車で山に登り、素晴らしい景色を見たそうだ。しかしその日は曇天で、時折雨がパラつく、ぐずついたお天気だった。主に島の周囲の海岸線をドライブしたように思う。

 

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宿を出てしばらく走ると、ピンク色のジキタリスの花がたくさん咲いていたので、花が咲いているね、というニュアンスで、「ジキタリス」というと、食堂で声をかけてくれた人だったかもしれないが、中でも植物に詳しいらしい人が、薬草として呼ぶ時にはそう呼ぶようね、よく知っているのね、というようなことを言って、普通は"Foxglove"というの、と教えてくれる。

そう言えば、「狐の手袋」とも言ったな・・・と思い出しながら、「フォックスグローブ」と言うと、そうじゃなくて "Foxglove" よ、と皆で言い直すように促す。

「フォックスグローブ」と繰り返すと、違う違う、"Fox" "Glove" と発音の口の形を作って教えてくれようとする。「フォックスグロウブ、フォックスグローヴ・・・」と何度も言ってみたのだが、なかなか及第点をもらえなかった。

 

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私が植物が好きだと言ったので、時折野原のようなところにみんなで降り、付近を歩く。名前を教えてくれながら、花を手折ってきては、私にくれた。

キンポウゲが咲いていたので、以前園芸好きの母から、カップ型の花の内側がバターを塗ってあるように光るから、英語名はバターカップというのだと聞いていたので、「バターカップ」と言ったら、よく知っているわね!と、花びらを傾けて光らせて見せてくれた。

蘭を見つけた時には、「オーキッド?」と指差すと、これは、摘んではダメよ。とても貴重な花なの。と、教え諭すように言う。

 

道を走っていて、鯨の骨がアーチのように地面にさしてあるところがあって、彼女達が、あれは何かわかる?と聞いてきたので、先輩と「ホエール・ボーン?」と言ったら、本当に色々知っているのね、と褒めてくれた。

 

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あの時、私は20代後半で、社会人になってからも数年経っていたが、彼女達には子供に見えたのだろう。

仕事は何をしているのかと聞かれたときに、当時私は、何でも屋というか、備品の補充やら発注、お金の計算もするし、台帳をつけたり、お客からの問合せ電話も取っていたし、隣に座る部長の電話の取次、細々した用事や来客時の部屋の予約など秘書的なこともしていた。庶務というところだが、そんな英単語を知らなかったので、「セクレタリー」と言ったら、こんな子供が、という顔で驚かれた。

 

途中で、Potteryに寄りましょう、と言われた。Poetry? 誰か詩人の生家か記念館にでも行くのかな、と思った。しかしどうも話が噛み合わない。誰かがマグカップを取り出して、Potteryと言ったので、ああ、焼きもののことか・・・製陶場に行くのだとわかった。

後で、あなたはもっと英語を勉強しなさいね、と言われたが、あれからさしたる進歩がないままだ・・・

Potteryは、地元のアーティストがやっているようなところだった。

素敵だけど、ちょっと高いわね、と店を出た後に彼女達が言っていた。

 

そう言えば、きれいな花やかわいいものを見た時だけでなく、状況や行為などに対しても彼女達は、"Lovely" を連発していた。こんな時にも使うのか〜と面白く感じたが、小さな花などを囲んで、四人が口々に "Lovely" "Lovely"と褒めそやす姿が、なんだか可愛らしく思えた。

 

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昼時になって、海沿いの道に木製のテーブルとベンチが据えてある場所があったので、そこでランチにしようということになった。

晴天だったら眺めのいい場所だっただろうが、車窓からぱっと見た印象は、グレーといった感じの、ひどく寒々しい場所に思えた。

ベンチやテーブルには、湿気の多い天候ゆえ、苔の一種だろうか、白っぽい緑や黒色のまだらができていた。ベンチも湿っている様子で、こんなところで、食事?と思ったが、彼女達は気にする様子もなく、車から食糧を取り出して、テーブルに並べ、敷物もひかずに無造作に座った。

 

先輩も私も何も食料を持っていなかったが、彼女達の誰かが、車を止めて散歩している間に、スーパーでパンやハムを買ってきてくれていたようだ。

誰かの手作りだというチャツネの入った瓶を回し、それをパンに塗って、ハムをのせる。ハムと言っても日本の薄いピラピラしたのではなく、肉の塊をそのままボイルしたのを厚めに切った感じのザクッとした白っぽいもの。

それに合わせるのは、濃いめに入れた熱い紅茶に牛乳を注いだミルクティ。

この時に、濃いめに入れた紅茶のことをストロングティーと言うのだと知った。

チャツネが甘酸っぱくて、ハムには特に味付けもなかったと思うが、よくあって、おいしかった。

寒々した風景の中だったが、他に何もなくても、温かい紅茶と彼女達の楽しげなおしゃべりで気持ちも温まり、本当においしく、満ち足りた食事だった。

 

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