植物雑感

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ベランダに出るとこの時期、沈丁花のいい香りがする。

長年、何か香りのいい花木が欲しいと思っていて、ついに去年の1月に購入した。

 

花の香りで一番好きなのは、クチナシだけれど、クチナシにはオオスカシバ(透明な翅を持つスズメ蛾の一種)が寄ってくる。

成虫は、ウグイス色の胴体に、えんじ色の帯があり、腹端に黒い毛束が付いていて、なかなかお洒落な姿。高速で飛び、ホバリングもできるので、粋な感じもあって、むしろ好ましいくらいなのだけれど、その幼少期の姿を見たら、全身鳥肌もの。ベランダのような狭小空間では、なおさら出会いたくない。

花屋でクチナシを見かけるたびに欲しいな〜と思うのだけれど、毎回断念している。

 

沈丁花クチナシ金木犀を加えて、三大香木と呼ぶそうだ。

いずれも通勤路にあるので、自転車で走っている時にも、ふと薫ってきて、季節の到来を感じさせる。時には香りに誘発されるのか、感傷的になって遠くに住む友人たちのことを思ったりする。

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通勤路の金木犀。大昔、桂林に行った時、町中に香りが漂っていたのを思い出す。

 

 

三大香木はいずれも身近な木で、誰でも一度は香りをかいだことがあると思うけれど、見知っていても、その花に香りがあるのを意外に知らない人が多いのではないかと思う植物もある。

 

その一つが葛(クズ)。

つる性の多年草で、道路脇の木などを一面に覆い尽くしているのを見かける。とても繁殖力の強い植物だ。赤紫の藤に似た花が咲き、根からは葛湯や葛切りのもとになる葛粉が作られる。秋の七草の一つ。

 

この葛の花に香りがあると知ったのは、空き地をほっつき歩いていた子供の頃で、最初に花の匂いをかいだ時に、ファンタグレープの香りがする! と驚いた。

そう、甘い、ぶどうジュースのような香り。

 

横道にそれるけれど、人生で最も古い食べ物の記憶というのが、そのファンタグレープ。

どこかの観光地で初めて飲んだ。グラスに入った紫色の透明な液体。氷と着色したさくらんぼ、レモンの輪切りも入っていたかもしれない。シュワシュワと泡がはじけるのに見入ったのも覚えている。

世の中にこんなにきれいで、美味しいものがあるのか、と衝撃を受けたのだろう。

ファンタは、販売元のサイトによると1958年に発売され、Fantasy(空想)とFantastic(すばらしい)に由来して名付けられたブランド名だという。

とすれば、私のファンタ初体験の頃は、まだ比較的新しい飲み物だったと言える。

当時の子供にとって、まるで宝石を溶かしたかのように思えた液体は、まさにFantasticだった。

 

葛には、もう一つ子供の頃の思い出がある。遠足で高台にある公園に出かけた時、芝地の尽きたあたり、崖のような場所に葛が生い茂っていた。とても風の強い日だったので、子供たちはその葉をちぎって、風に飛ばして遊んだ。

葛の茂みが風にあおられ、白っぽい裏葉がひるがえっていた光景が今でも目に浮かぶ。

あの時は、それを言葉で言い表すことができなかったけれど、ある種の美しさを感じていたのだと思う。その美しさの中に、なにがしかの哀しさもちょっぴり含まれていた気がする。

 

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そんな感覚は、知人が船を係留していた小壺マリーナの付近で苅萱を初めて見た時にも感じた。すっかり枯れて、カサカサと音がしそうな姿だったけれど、温かみのある薄茶色の枯れ草に、何か他の草とは違う味わい深さを感じたのだった。

 

葛や苅萱は、古来から日本人がその風姿に目をとめ、歌に詠んだり、描いたりしてきた。

10歳たらずの子供が、誰に教えられたわけでもなく、草に「もののあはれ」を感じたのは、やはり日本人のDNAによるものなのだろうか?